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エンデキャンプ 2024 ー中編ー

エンデキャンプでは、童話作品に込められたエンデの思想を学びます。
また、参加メンバーそれぞれがお気に入りの登場人物や挿絵などについて発表し合うことで、解釈の幅を広げていくセッションも盛り上がりました。

参加メンバーが自分の好きなエンデの言葉や挿絵をカードへ書き写したもの。
エンデキャンプの思い出にと、それぞれ大切に持ち帰りました。


6.  作品に込められた想いを知り、解釈を深める。

ー MOMO モモ ー

岩波書店|ミヒャエル・エンデ 作・絵/大島かおり 訳

不思議な少女MOMOが、灰色の男たちによって盗まれた「時間」を取り戻す物語です。

エンデにとって物語とは、解説や批評をするものではなく想像力をはばたかせて体験するもの。読者が登場人物に寄りそって同じ体験をし、そこから自由に何かを感じて欲しいと考えていました。本人直筆の挿絵でも、顔や姿をはっきり描いていないのは、読者に想像してもらいたかったからなのです。

"  人間には時間を感じとるために心というものがある。そして、もしその心が時間を感じ取らないような時には、その時間はないも同じだ。"

MOMO


MOMOに登場する亀カシオペイアの中の小さな命の時間。
「時間がない」「ひまがない」とスマホ片手に忙しなく移ろう現代人の時間。

いろいろな時間があるけれど、あなたの中にはどんな時間がありますか
ーーーそんな問いかけがエンデキャンプの中でありました。

『携帯って、形を変えた "時間どろぼう" なんじゃないの?!』

『昨年キャンプに参加した時には、グレーにしか見えなかった黒姫の景色が今年は色鮮やかになったんです。"時間どろぼう" 対策が上達したのかもしれません。』

そんな声が上がり、笑いながらも深く頷く参加メンバーたち。
" 自分の中を流れる自分の時間に出会いなおそう ” というエンデキャンプのテーマに、ピントが合っていきます。



ー NEVER ENDING STORY はてしない物語 ー

岩波書店|ヒャエル・エンデ作、上田 真而子 訳 , 佐藤 真理子 訳 、
ロスヴィタ・クヴァートフリーク額画

少年が読んでいる物語の舞台「ファンタージエン」に入りこんでしまい、危機におちいっていたファンタージエンを救う旅に出るという物語です。
現実の世界と想像の世界を行き来することで、その両方を豊かにすると考えたエンデ。読者自身の想像力が、物語の世界をさらに広く豊かにしてくれるよう願いを込めて制作しました。

"  正しい名だけが、すべての生きものや事がらをほんとうのものにすることができるのです。…誤った名は、すべてをほんとうでないものにしてしまいます。それこそ虚偽の仕業なのですよ。"

はてしない物語


真の意思や希望が持てず、虚偽が蔓延すると、虚無が広がり、ファンタージエンも人間界も荒廃してしまうという危機が描かれていますが、その「虚無」に対抗するにはどうしたらよいのでしょうか。
ーーーそんな問いかけへの答えをエンデキャンプで見つけていきます。

『心のままに進む道がわからなければ、夢も未来も描けない。そこにあるのは虚無だけです。虚無にさらされず、自由にビジョンを思い描いていく力が、自分らしく生き抜く鍵なのだ、と、エンデは伝えてくれています。創造的に想像することで、新しい意識が生まれ、生きる基準を自らの中に持つことができるのです。』

解釈が深まり、心が養われる。これぞエンデキャンプのファンタジー療法。
" 自分の中に眠るファンタジーと再会しよう " というもう一つのエンデキャンプのテーマに、心が寄せられていきます。



7.  エンデのファンタジー論

エンデは、鋭い文明批評を内包するファンタジーやスリルを通じて、現代社会のもつ病根をさぐりだし、癒しの手を差しのべようとしたドイツ文学の巨匠です。深くゆたかな人生の真実を、楽しくて美しい幻想的な童話の形式で伝えてくれました。

過度の競争や強制によるストレス社会に生きる現代の人間にとって、ファンタジーは欠くことのできない重要なものだとエンデは伝えます。
ファンタジーとは、新しい意識を育む場であり、自分を解き放つ手段なのです。

晩年の作品は、より大人の読者向け、かつ現代的なテーマへと移っていきました。

エンデは、全てのファンレターの返信に、必ず直筆で一言メッセージを添えていました。


つづく最後の後編では、エンデキャンプの課題図書『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』を介して、エンデが託した願いについてをお届けします。


>>「エンデキャンプ 2024  ー 前編 ーを読む

>>「エンデキャンプ 2024  ー 後編 ーを読む