エンデキャンプ 2024 ー後編ー
信濃町の黒姫童話館で開催されるエンデキャンプには、課題図書があります。今年度の図書は『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』。著者である河邑 厚徳さん(かわむらあつのり)の公開講座がエンデキャンプにて行われました。
河邑さんは、元NHKプロデューサーでNHKスペシャル『アインシュタインロマン』の制作中にエンデと出会い、深い親交を結びます。1994年にエンデが日本人に残したメッセージを基に1999年『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』を制作。エンデが晩年考えていた「お金」や「経済」についてのメッセージを伝えました。
8. お金は神に変わった
公開講座では、お金についての解釈をまず深めていきます。
もともとお金は、労働と価値を交換する交換手段として機能する発明品でしたが、次第に、価値の尺度へと変化しました。これは、市場の中で全ての価値がきまる市場原理に従うものです。そしてその先、お金の意味はさらに拡大し、価値の尺度から価値を保存する手段へと変化。預金や企業資本として利用され、利子による不平等が生まれます。また、お金は投資によって増大する商品としても扱われ、お金でお金を売り買いされるようになった今、金融消費社会はバーチャルなマネーゲームのなかにあるのです。
途上国の経済破綻、貧富の格差拡大・・・破滅に向かうスパイラルからどう脱出するかを考えた時、全ての問題の根源はお金なのだと、エンデは河邑さんへ説きました。
9. 時間をめぐる戦争
植民地政策や戦争という体験を経ても、母なる地球は無尽蔵であるかのように振る舞う人間にエンデは警鐘を鳴らします。
エンデは、西洋合理主義を批判しましたが、決して悲観主義にはならず、人間の友愛精神に希望を見つけ、物語の中で伝え続けました。
代表作MOMOでは、「よい暮らし」のために今を犠牲にし、必死で時間を倹約し追い立てられるように生きる人間模様を描いています。子供たちまで遊びをうばわれ「将来のためになる」勉強を強制されます。心豊かな時間は消え失せ、見せかけの繁栄とはうらはらの灰色の大都会で、浮浪児MOMOがカシオペイアと共に時間を取り戻していく物語からは、多くを考えさせられます。
10. 老化するお金
お金の実態に迫るエンデは、ドイツの思想家シルビオ・ゲゼルの思想を河邑さんへ紹介しました。人の命を含む、あらゆる物は滅び朽ちる有限の自然世界に反して、お金だけは不滅の永遠性を持っています。神化されたお金の一人歩きに危機を感じたエンデは、シルビオ・ゲゼルに深く共感していました。
11. 自立したお金「地域通貨」
資本にならず循環するお金
利潤を求めて暴走しないお金
利子を生まず有限性をもつお金
コミュニティを育て地域内をめぐるお金
そんなお金のモデルが、地域通貨という形で実際に運用されています。
世界では独自の地域通貨を活用し、健全で自立したコミュニティ作りに成功した事例が3000以上もあるといいます。
地域通貨とは、特定の地域やコミュニティでのみ有効な通貨で、自治体や企業、NPO、商店街などが発行するものですが、エンデキャンプ発起人の影山さんは地元・国分寺の町で「ぶんじ」という地域通貨を発行し、今年で流通12年目となります。現在では発行額の累計が240万円相当に上り、地域全体を循環しながら人と人の気持ちを繋ぎ、コミュニティの輪を作る大切な役割を担っています。
「ぶんじ」は、農家応援や地域イベントのボランティアなど、町のために汗をかいてくれた方に渡す通貨で、これで野菜を購入したり、カフェでお茶を飲んだりと、現金と組み合わせて使用することができます。
<欲望を満たすためではなく、感謝の気持ちとして「ぶんじ」を使う>という精神性を持たせているため、「ぶんじ」の裏面には一言メッセージが書き込めるようデザインされた夢のような通貨。心のこもった地域通貨が普及することで、実際のお金の使い方もまた変わることに期待が高まります。
「嬉しい経済行為」として地域間での認識が深まっている「ぶんじ」。
コミュニティに対する使命感だけではなく、焦らずに楽しく運営してきたからこそ、持続可能な地域通貨として運用できているそうです。
エンデが警鐘を鳴らした「崇拝されるお金」に対し、地域通貨はとても健全で、地域経済の活性にも寄与するもの。それはまさに具現化されたエンデの願いそのものです。
日々の営みに欠かすことの出来ないお金と経済活動だからこそ、視点を変えて捉えなおす貴重な機会となった公開講座でした。
12. 次回は「エンデ学会」としての開催が決定!
エンデの願いをうけて、黒姫童話館では次のイベント「エンデ学会」を企画中!10月26日(土)27日(日)の2日間で開催予定です。
エンデを通じて、ご自分の体験を広げにぜひいらしてください。
詳しい情報は下のバナーリンクからご確認いただけます。